Everything's beautiful

辺境の地で愛を叫ぶ

ハウ・トゥー・サクシード

「新たなミュージカルスターの誕生だ」

そう確信する舞台だった。

ミュージカルどころか舞台観劇経験のほぼないわたしが言ったところでなんの説得力もないけれど、ただの素人にも心からそう思わせる迫力は、間違いなく増田さん自身から出たものだった。

 

明るく響く伸びやかな歌声。

生き生きと軽やかに踊るダンス。

そして何より、誰よりも楽しそうに、増田さんはその舞台でフィンチを生きていた。

 

入所してからの芸能生活20年の中で積み重ねてきたもの。

言葉にすると簡単だけれど、その努力の凄まじさを存分に見せつけてきた。

この5年間ずっとファンとして追ってきて、毎日見てきたはずなのに、まだ知らない顔があったなんて。

歌も踊りも演技も、今まで培ったものの中から出ているはずなのに、そこにいたのは増田貴久ではなく完全にフィンチで、わたしがまったく知らない人としか思えなかった。

 

わたしは‪「Only You〜ぼくらのROMEO &JULIET〜‬」で初めて増田さんの舞台を観て、その歌唱力とダンスの凄まじさに圧倒されたから、ハウ・トゥー・サクシードでもその部分を楽しみにしていた気持ちがだいぶあったのが正直なところだけど、このミュージカルでわたしは、演技の部分でもっとも増田さんに圧倒されてしまった。

くるくると変わる表情、細部まで神経の行き届いた体の動き、早口のセリフ回しでフィンチというキャラクターをコミカルに演じ、何よりもそれを増田さん自身がめちゃくちゃに楽しんでいるのが伝わってくるから、客席までどっぷりとその世界に引き込まれてしまう。そんなものすごいパワーを見せつけてくる増田貴久の真の実力に、舞台を心から楽しみながらもずっと圧倒され続けていた。

 

 

わたしはソレダメの解決王子が大好きで、それはバラエティーやコンサートのMCといった場面ですぐボケて、そしてよくすべって場を凍りつかせてしまう増田さんとはまったく違って、すごくうまいしめちゃくちゃに面白いなと前から思っていた。

ボケるのは大好きだけど、間の取り方や瞬発力といったお笑いに必要な要素が増田さんに向いてないんだろうなと、(そういうバラエティでのポンコツキャラの部分も大好きなんだけど)それが解決王子では、ちょっとキザな言い回しやカッコつけた仕草が、コメディとしてちゃんと笑いになっていて、台本を与えられたうえで演じるとこんなにも面白くできる、喜劇役者としてすごい才能があるんだなと密かに思っていた。

それがハウ・トゥー・サクシードというミュージカルコメディの場を与えられて、生き生きと、それはそれは楽しそうに演じ、コメディの適正をめちゃくちゃに発揮してる姿を見て、やっぱりと膝を打つのと同時に、わたしが思っていた以上にこんなすごい才能を、とんでもないものをまだ隠し持っていたんだなと、舌を巻くしかなかった。

 

ハウ・トゥー・サクシードはこのコロナ禍での上演に際して、稽古から感染防止に最大限に気をつかい、出演者全員が何度も検査を受けるという厳しい状況の中でやってきた。

きっと春頃にはまだ、上演できるかどうかの判断は出来ず、どうなるかわからない状況が長く続いたことと思う。

実際に幕が上がるまでの稽古の期間、「絶対にやりきる」という強い意思と「しかし状況次第ではどうなるかわからない」という気持ちのせめぎ合いだったのではないかと勝手ながら思っていて、それでも増田さんは一貫して「公演に向けて稽古させていただけてることが幸せ」だと語っていた。

感染者を出さない、自分も絶対に感染することは許されないという状況で、座長としてのプレッシャーや責任の重さはどれほどだっただろう。

それでも表に見える部分では絶対にそんなことを感じさせず、レギュラー番組に加えてドラマの主役、24時間テレビと続いた激務の期間を、笑顔でやりきった増田さんのすごさには本当に圧倒されてしまう。

世間の厳しい状況に加え、グループにもいろいろとあり再出発をはからなければならないタイミングでもあり、でもそんな中で作りあげたこの舞台が、悲壮感や影の努力などまったく感じさせず、ただひたすらに面白くて楽しいミュージカルになっていたこと。増田さん自身がこの夢の舞台を心から楽しんでいたことが本当にうれしかった。

インタビューでこの話を初めて聞いた時に「楽しみ100、プレッシャー100、うれしさ100」の気持ちだったと語ったように、大変な状況の中でもきっと、プレッシャーよりも楽しさやうれしさの方がずっと上回っていたんだろうなと思う。

 

このコロナ禍の中で行うミュージカルには、出演者はもちろん、観に来られる観客それぞれも厳しい状況を経てきている中で、ひとときの楽しさと夢の時間を届けたいという思いが強くあったはずで、そこにはわたしなんかには想像もできない責任や重みを背負っていたに違いないのに、そんななかで見事にこのミュージカルをやりきり、自分の夢と、カンパニーのみなさんの夢と、観客の夢を叶えた増田さん。

カンパニーのみなさんと関係性を築くための食事を一緒に行くこともままならず、それでもみなさん口を揃えて「仲良し」「雰囲気がよくて大好き」と言ってくださっているその一座を座長として作りあげたのは、ひとえに増田さんの人柄によるものだと思う。

決して先頭に立って引っ張っていくタイプではないのに、その佇まいや雰囲気、ミュージカルに臨む姿勢でカンパニーを率いる増田さんは本当にめちゃくちゃにかっこよくて、どうしようもないくらい好きな気持ちがあふれてしまう。

 

表に出ている顔は優しくて穏やかで、でも実はその心の奥底には厳しい世界でここまでやってきた自負と、絶対にここだけは譲れないというこだわりと、これまでの経験すべてを糧にして、さらに上を目指すという貪欲さが垣間見えることもあって、コロナやメンバーの脱退やそういうマイナスにしか思えない経験も取り込み、自分自身を着々とレベルアップさせていっているのを感じると、この仕事への凄まじい情熱と野心に心から畏れを抱いてしまう。

 

ブロードウェイの名作ミュージカル、しかも名だたるミュージカル俳優たちに囲まれての主演を「ジャニーズの増田貴久頑張ります」と言いきったその言葉と、そして見事にそれをやり抜いた姿を見て、ジャニーズとして積み重ねてきた今までのすべてがこの作品に繋がっていき、さらにそれが「ジャニーズがどれだけできるのか」という思いで観にきたミュージカルファンの方たちにも絶賛されているのを見ると、ジャニーズとして、NEWSとしての増田貴久を何よりも大切にしてきた増田さんが、すべてを叶えていっているその姿が本当にまぶしい。

 

そして舞台上で本当に明るく伸び伸びと、生き生きと歌い踊り演じている、その夢をいままさに叶えている瞬間を見られたことは、増田さんのファンとしての自分にとっても本当に大きなことで、とても大切な時間になった。

だからこそ本当なら、こんな状況でなければ満員の客席を前にこの素晴らしい舞台を演じられたのに、その姿を見たくても今の状況でかなわなかったたくさんの方にも観てほしかったのに、という思いがどうしても消えない。

これからの増田貴久がここからさらに飛躍していくのは間違いないし、だからこそ増田さんを愛するたくさんのファンが、みんなが一緒にその夢を見られる世界がいずれ訪れることを心から願っている。